文系大学院生の読書録

詩・ミステリ・たまーに洋書

リア充生活の裏で Robert Hass "The Feast"

Robert Hass "The Feast"

 

 アメリカで何度かディナーにお呼ばれしたことがあります。映画かと思うような、キラキラした世界です。・・・旦那さんに玄関でコートを預け、奥さんに手土産を渡す。リビングに入ると、飲み物の好みを聞かれる。綺麗に整えられた部屋。豪華に活けられた花。テーブルにはおつまみが用意され、キッチンから香ばしい匂いが漂ってくる。ワイン片手に談笑する人々。ゲストが揃った頃、再び奥さんが顔を出す。準備ができましたから、ダイニングへどうぞ。火の灯されたろうそく。銀の燭台。テーブルいっぱいの料理。楽しいディナーの始まり始まり・・。

 

 今回はそんなキラキラしたホームパーティの最中、一人キッチンで料理の支度をしている女性の詩です。(かっこ内は要約です。)

 

(友人たちは、日のあたるデッキで楽しく語らっている。彼女が七面鳥をオーブンから取り出す間も。彼女は夢想する。彼らが料理の方にやってきて、無意識の喜びを感じながら、ピクルスをかじるところを。自分が肉料理やパン、前菜、サラダを見事に並べるところを。そして彼女に呼ばれた友人たちが、踊るようにやってくるところを。)

 

. . . She carverd meat

and then she was crying. Then she was in darkness

crying. She didn't know what she wanted.

彼女は肉を切り分け

そして泣いていた。暗闇の中で

泣いていた。彼女は、自分が何を求めているのかわからなかった。

 

 「彼女」がどうして泣いているのか、何を求めているのかは書かれていません。しかし、書かれていないからこそ、「彼女」が泣き出した心境がわかるような気がして不思議です。

 

 語り手は、パーティに来ている人々を「恋人たち」と呼び、「男と一緒に居る男たち」「新しい女("new women")と一緒にいる男たち」「妻のような女たち("the wifely women")」と様々に説明します。ゲイを始め、フェミニズム運動の中で生まれた「新しい女」のように伝統的な女性像を書き換えようとする人もいれば、伝統的な女性像に抵抗のない「妻のような女たち」もいるようです。

 一方、一人で料理の支度をする「彼女」の姿は、それぞれのパートナーと語り合う招待客たちとは対照的です。ホームパーティなんて、幸せな日常生活のお披露目みたいなイベントなのに、その準備をする「彼女」はあまりに孤独。詩の中に、夫やパートナーについての言及が一切ないのが余計に気になります。彼女はなぜ泣き出したのか。パートナーを求めているのか、パートナーとの関係に悩んでいるのか、女性としての生き方に迷っているのか、それともそれとは全然別の、何か満たされない思いがあるのか。パーティは完璧で、自分が美しく料理を並べ、友人たちが軽やかに近づいてくるところまで想像できるのに、それでも「彼女」は泣き出すのです。

 

 「彼女」がどうして泣いたのか、何を求めているのかは、どれだけ考えてもよくわかりませんでした。ただ、お呼ばれしたディナーで何だか不安になったことを思い出しました。これは「本当」なの?と。

 

 

Robert Hass(1941-)アメリカ、サンフランシスコ生まれ。

"The Feast" :Good Poems(Garrison Keillor編) p261所収

 

 

Good Poems

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