文系大学院生の読書録

詩・ミステリ・たまーに洋書

親の影響から逃げられるのか。「天気」リンダ・パスタン

 

"Weather" by Linda Pastan

***

小さい頃、黒い傘が光を遮るように、父親に脅されていた。そのせいで、今の人生はシンプルすぎて、まるで普通じゃないみたいに思える。

 

You speak of this,

throwing the window open

on a plain spring day,

dazzling

after such a winter.

あなたはそんなことを話しながら

まっさらな春の日に向かって

窓を開け放つ

まばゆい

あんな冬のあと。

 

*** 

 親に抑圧されてきた語り手の友人は、やっと手に入れた穏やかな生活が、まるで「例外的」なものに感じられてしまいます。けれど、冬は春になり、父親の黒い傘はもう閉じられて、頭上には春の青い空が広がっています。その「普通」の生活を信じられないでいる友人ですが、詩人は、それがいつか友人にとってあたりまえになることを確信しているかのようです。

 親から受けた影響から逃れられないのではないか、自分も子供に同じことをしてしまうのではないか、と不安になることがあります。そんな時、私の目は過去の黒い傘の影をひたすら見つめ続けているのかもしれません。実際には、青空が広がっているのに。あなたの頭上にあるのは、未来にあるのは、もはや親の影ではなく、春の青空なんだと、詩人はそっと呼びかけているのでしょう。

 

"Weather" by Linda Paston(1932-)

from Good Poems ed. by Garrison Keillor.(p.228)

Good Poems

Good Poems

 

 

人生がつまらないなら飲み会に行くな。"As Much As You Can" Constantine Cavafy

 

「可能な限り」 コンスタンディノス・カヴァフィス

 

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もしも人生があなたの思い描いていたものと違うなら、とりあえずできるだけのことをする。そして、世間と関わりすぎたり、出かけすぎたり、人と話しすぎたりして、自分の人生を貶めるようなことはしちゃいけない。

 

Try not to degrade it by dragging it along,

taking it around and exposing it so often

to the daily silliness

of social events and parties,

until it comes to seem a boring hanger-on.

 

人づき合いやパーティなんていう

日々の愚かな行動に、人生を

何度も引きずりまわし

連れまわし、晒しものにして

貶めないようにしなさい。それがつまらない

物欲しそうにぐずぐずしている人の集まりだと思えるまでは。

 

***

 つまらない人生を少しでも面白くしようとして、飲み会に行ったり、出かけたりする。けれど、それをすればするほど他人と自分を比べてしまって、余計に自分の人生が退屈に思えてくる。パーティなんてものは、自分の人生に満足できない人たちが、何かを手に入れようとしてぐずぐず集まっている場所にすぎない。

 ああもう本当にその通り。なんとなく退屈で、非日常が欲しくて飲み会に行くけれど、行っても満たされないし、むしろ虚しくなるだけなんですよ。身に覚えがありすぎて耳が痛い。

 人が私の人生を面白くしてくれるわけじゃない。自分の人生を面白くできるのは自分だけ。とりあえず、やみくもに飲み会に行くのだけはやめよう。

 

 この詩人はエジプトで生まれ暮らしたけれど、原語はギリシャ語のよう。100年近く前に書かれた詩とは思えないほど共感してしまう。面白そうな詩人だなぁ。

 

"As Much As You Can" by Constantine P. Cavafy(1863-1933)

C.P. Cavafy - Poems - The Canon

from She Walks In Beauty: A Woman's Journey Through Poems. Ed. by Caroline Kennedy. 

She Walks in Beauty: A Woman's Journey Through Poems (English Edition)

She Walks in Beauty: A Woman's Journey Through Poems (English Edition)

 

 

親に優しくできない。「昨日」W.S.マーウィン

 

"Yesterday" by W.S. Merwin

 

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私はいい息子ではないと、歳上の友人が言う。両親に会いに行くことは稀で、同じ町に住んでいた時でさえ、月に一度くらいだったから。最後に会ったとき父親は私の話を聞きたがったけれど、私が腕時計を見たのに気づいて、「もし忙しいなら、ここにいなきゃいけないなんて思わなくていい」「お前には大事な仕事があるだろうし、会わなきゃいけない人もいるだろう」と言った。だから私は「そうなんだ」と言って帰ってきた。

 

though there was nowhere I had to go

and nothing I had to do

行かなきゃいけないところなんてなかったし

しなきゃいけないこともなかったんだけれど

 

***

「私」と「父親」のやりとりが、「歳上の友人」の言葉を通して、「私」を責めるように描かれる。それはたぶん、この「友人」が「私」と同じように振る舞ったことがあって、それを後悔しているからだと思う。けれど何がつらいって、優しくしたいと思っても、優しくしないといつか後悔するとわかっていても、なぜか親と一緒にいるのがしんどかったり、優しくできないときがあること。わかっていてもできないから、自己嫌悪に陥るしかない。「私」のように・・。

 

 

"Yesterday" by W.S.Merwin(1927-)

from Good Poems ed. by Garrison Keillor (pp. 376-77)

Yesterday by W. S. Merwin - Poems | Academy of American Poets

Good Poems

Good Poems

 

不安なときは。「野生のものたちの静けさ」ウェンデル・ベリー

 

 "The Peace of Wild Things" by Wendell Berry

 

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When despair for thr world grows in me

and I wake in the night at the least sound

in fear of what my life and my children's lives may be,

 

世界への絶望が、自分の中で大きくなって

自分の人生や、子どもたちの人生はどうなるのだろうと怖くなり

夜中、かすかな物音で目が覚めてしまうとき

 

 

そんなときは、カモが水にたたずみ、サギが餌をついばむところへ行って横になる。「野生のものたちの静けさ」「静かな水の存在」があるその場所には、人生を考えすぎて、自分で自分の首を絞めてしまうような者はいない。

 

 And I feel above me the day-blind stars

waiting with their light. For a time

I rest in the grace of the world, and am free.

そして頭上に、真昼の星が

光りながら待っているのを感じる。しばらくのあいだ

私は世界の美しさに安らぎ、自由になる。

***

 この先自分はどうなるのだろうと、不安で身動きが取れなくなることがある。そこから抜け出す術はたぶん人それぞれ。私にもいくつかあるけれど、森の中に行ってぼーっとするのは好きだ。

 目に見えない未来は、一度不安にとらわれると、ものすごく恐ろしいものに思えてくる。けれど実は、そんなに怖いものではなくて、ささやかに光りながら、私たちを待っていてくれるものなのかもしれない。目には見えない真昼の星のように。

 

"The Peace of Wild Things" by Wendell Berry(1934-)

from The Ecopoetry Anthology. Ann Fisher-Wirth and Laura-Gray Street ed.(p.177)

The Ecopoetry Anthology

The Ecopoetry Anthology

 

プルーストはお好き?「栞」トム・ディッシュ

"A Bookmark" by Tom Disch          

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4年前プルーストを読み始めた「僕」。簡略版の半分を過ぎたけれど、まだ700ページも残っている。それでも「僕」は最後まで読み通すつもり。だってこれ以上退屈になるはずがないから。 主人公はアルベルチーヌのためにシルクデシンのショールと最高級の帽子を買っている。ひ弱で甘ったれ、なんて嫌なやつなんだろう。

 

Four years ago, by God!---and even then

How I was looking forward to the day 

I would be able to forgive, at last,

And to forget  Remembrance of Things Past.

4年前、ああ!ーーあの時でさえ

どんなに待ち焦がれていたことか

失われた時を求めて」を許し、

ついには忘れられる日を!

***

 この詩を読んで、プルーストを読みたくなるか、読みたくなくなるか。4年かけて700ページ読んでもまだ半分残ってるし、これ以上ないほど退屈。そして「僕」も私たちもわかってる。たぶんその「退屈」は終わりまで続く。それでも「僕」はやめようとしない。何かが「僕」を惹きつけて離さない。

 私は去年プルーストに挑戦して3ページで挫折した。(そして母はどハマりした。)いったいあの作品の何が人を魅了するのだろう?ちょっとだけもう一度挑戦したくなった。ほんのちょっとだけ。

 

"A Bookmark" by Tom Disch

from Good Poems (p.276)

Good Poems

Good Poems

  

魔女修行に探偵業。It All Began by Adele Abbott

 

It All Began by Adele Abbott. 表紙がかわいすぎる。

Witch Is When It All Began (A Witch P.I. Mystery Book 1) (English Edition)

Witch Is When It All Began (A Witch P.I. Mystery Book 1) (English Edition)

 

***

私立探偵のジルは連続殺人犯を見つけるよう依頼された。例のごとく、警察は役に立たない。片目の黒ネコはそんなに自慢にならないし、一日中編み物をしている秘書もたぶんあてにならない。これだけでも十分なのに、ある日とんでもないことが発覚した。ジルは魔女だったのだ。

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The Witch P.I.シリーズ1作目。

 

コージーミステリらしい軽やかさや、はちゃめちゃな人たちが織りなす人間模様が面白い。几帳面なジルとbossyなお姉ちゃん・キャシーに、片目が見えない黒ネコ・ウィッキーと、秘書のおばあちゃんミセズ・Vなど、ケンカしながらもじゃれ合っているようにしか見えないペアが多数。微笑ましや。

 

ミステリ要素に魔女ファンタジーが絡んでいるのだけど、これまであまり読んだことのないやり方で魔法が使われていて、この魔法の発動の仕方が個人的にすごく好き。あとはジルのお母さんの故郷・キャンドルフィールドが、読んでいてわくわくするような町。ハリポタとは違った感じで、行ってみたいと思わせてくる。全体的に、ミステリ部分よりも、ジルの魔女修行のほうが好きだったかも。

 

超自然要素の入ったコージーミステリはあまり読んだことがなかったけれど、こういうのも面白くていいなぁ。

 

肋骨の間から「穴掘り」ドナルド・ホール

 

"Digging" by Donald Hall

 

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ユリが地面から顔を出した日の深夜、庭仕事を終えた「君」の指は汚れ、目は喜びでぼんやりしている。

  

寝室の窓から入ってきた南風。「君」はその腕に抱かれ、家の外に運び出され、ひび割れた地面に落とされる。(そしてそのとき「君」は種のように小さくなっている。)

 

 

「君」の肌にとって、冷たく乱暴な土は、見知らぬ男の手のようなもの。「君」は土の中、水に身をゆだねながら死の眠りにつく。

 

やがて「君」は脇腹が開いていく痛みで目を覚ます。肋骨の隙間から、緑の新芽が太陽に向かって顔を出そうともがいているのだ。

 

君が、君らしい姿で

思い悩むことなく

花たちと一緒に、緑に黄色、白、そして赤の言葉で

蜂に話しかけながら、花開くところへ向かって。

  

***

"dig"しているのは庭仕事をする「あなた」なのか、それとも「あなた」の中の「あなた」なのか。肋骨の間を内側から突き破ろうとする痛みは生々しい。けれど、そんなのたうちまわるほどの痛みを感じるとき、新しい「あなた」が生まれようとしているのかもしれない。

 

"Digging" by Donald Hall(1928-)

The Ecopoetry Anthology. Ann Fisher-Wirth and Laura-Gray Street ed. (p.295)

The Ecopoetry Anthology

The Ecopoetry Anthology